買主は、売主業者の不利益事実の故意の不告知により、「誤認」 して契約したものであるとして契約の取消しを認めた事例

 

ポイント

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

宅地建物取引業法によるクーリング・オフ,手付解除のほか,(宅地建物取引業法37条の2)

消費者契約法による取消が問題となります。(消費者契約法4条)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

本事例は、不動産投資を勧められてマンション2室を購入した原告が、消費者契約法4条による取消しなどを求めた事案において、売主である宅建業者が、客観的な市場価格を提示していないことや非現実的なシミュレーションを提示したことなどが消費者契約法にいう不利益事実の不告知に該当するとされた事例です。

 

消費者契約法にいう不利益事実の不告知が認められたものとしては、隣接地に3階建て建物が建つ計画があることを説明しなかった事例(東京地判H18.8.30)等周辺環境・近隣関係に関する事例はいくつか判示されているところであるが、本件は不動産の価格について判示したものとして実務上参考になると思われます。(RETIO. 2012. 10 NO.87)

 

不動産投資を勧められて2件の不動産を購入した買主が、重要事項の不告知、断定的判断の提供等をされたと主張し、売買契約取消しなどを求めた事案において、売主は客観的な市場価格を提示しておらず、非現実的なシミュレーションを提示し、月々の返済が小遣い程度で賄えると誤信させるなど、消費者契約法にいう重要事項について不利益となる事実を故意に告げなかったため、買主はそのような事実が存在しないと誤認し、契約を締結したものであるから、消費者契約法4条による取消しが認められるとした事例

(東京地裁平24年3月27日判決 容認 ウエストロージャパン)

 

判決の要旨

裁判所は、以下のように述べ、原告の請求を容認した。

 

⑴ Yが提示した価格は、何ら根拠が示されていないことや簡易査定及び不動産鑑定書と比較して市場動静を加味したとしても、合理的な変動の範囲内にあるとは到底思われないことなどを考慮すると、適正な価格を反映したものとは言えない取引であったものと認める。市場適正価格は投資をする際の重要な事項と言わなければならない。その意味で、Yは、契約を締結する際の重要な事項について事実と異なることを告げたものと認める。

 

⑵ 「将来売却プラン」を見せたため、Xは不動産価格の下落が精々 10%程度であると誤信させられ、予想できない急激な不動産価格の下落がない限りいつでも売却できるものと誤信したこと、購入後中古マンション扱いとなるため、売却価格は分譲価格の6ないし7割となるところ、そのような説明をされておらず、いつでもローンの残債が処理できる価格で売却できると誤信したものと認める。

 

⑶ 「将来売却プラン」は、価格の下落が10%程度が最大限であるかのように示され、20%以上の下落等については何ら記載されておらず、かつ、投資の危険性を説明した形跡は見当たらない。また、同時期に示された書面は30年以上も同じ家賃を前提とし(※の中で家賃の変動があることを示唆している)、Xが関心を示していた毎月の支払が小遣い程度で収まるとの点においても同書面は誤認させる要素を多分に含んでいるものと認められる。したがって、重要な事項についてXに不利益となる事実を故意に告げなかったものと認める。

 

⑷ 融資申込が拒否されないように登記費用などについてYが負担することを秘すように指示し、他方、将来的に家賃収入が減ったり、入居者が見つからなかった場合にXの小遣いではローンの返済ができなくなることについて十分説明をしていなかったものと認める。

 

⑸ Yは、Xに対し、契約1及び2の締結の際、重要事項である物件の客観的な市場価格を提示していないこと、家賃収入が30年以上に亘り一定であるなど非現実的なシミュレーションを提示し、Xに月々の返済が小遣い程度で賄えると誤信させたこと及びその他Xが不動産投資をするに当たっての不利益な事情を十分説明していなかったなど消費者契約法にいう重要事項についてXに不利益となる事実を故意に告げなかったため、Xはそのような事実が存在しないと誤認し、それによってXは契約1及び2を締結したものであるから、同法4条2項による取消しが認められる。

 

(なお、Xの損害として、支払総額5016万5900円から、受取家賃などの総額319万9180円の差額4696万6711円が認められた。)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

投資用マンションを購入してしまった場合の対処としては,主に次の4つが考えられます。

 

(判例から)

1,クーリング・オフ

2,手付解除

3,消費者契約法の取消1 強引な販売への困惑取消

4,消費者契約法の取消2 不実告知,不利益事実の不告知,断定的判断の提供の取消

 

不利益な事情を十分説明していない

投資マンションの売買について,「客観的な市場価格を提示していないこと,家賃収入が30年以上に亘り一定であるなど非現実的なシミュレーションを提示し,原告に月々の返済が小遣い程度で賄えると誤信させたこと及びその他原告が物件1及び2についての不動産投資をするに当たっての不利益な事情を十分説明していなかった」こと等を理由に,消費者契約法による取消を認めています。

 

不利益事実の不告知や不実告知に該当

例えば,家賃収入のシミュレーション等における,空き室となる可能性が全く無視された記載,空き室率の増大・家賃の下落・不動産価格の下落等について現在までの統計に反し,考えがたい前提がとられている記載,マンションの大規模修繕について全く考慮されていない記載は,不利益事実の不告知や不実告知に該当する場合があります。

 

消費者契約法が適用されるか

消費者契約法は,事業者と消費者との間の契約に適用されます。

「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいい、事業は、営利、非営利を問いません。(2条1項) また,事業とは,一定の目的をもってなされる同種の行為の反復継続的遂行をいうと解されます

例えば株の購入についても消費者契約法は適用されますので,投資用であるから消費者ではないと単純にはいえません。投資用マンションを電話勧誘をきっかけに初めて購入したような場合には,消費者に該当することが多いと考えられます。何棟もマンションを有してマンション経営を行っているという人であれば,消費者とはいえないでしょう。

 

消費者契約法

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B6%88%E8%B2%BB%E8%80%85%E5%A5%91%E7%B4%84%E6%B3%95

 

宅地建物取引業法による強引な勧誘の禁止

宅地建物取引業法(以下、「法」という。)では、宅地建物取引業者に対し、契約の締結の勧誘をするに際して強引な勧誘を禁止しています。

 

〔1〕   不確実な将来利益の断定的判断を提供する行為(法第47条の2第1項)

〔2〕   威迫する行為(法第47条の2第2項)

〔3〕私生活又は業務の平穏を害するような方法によりその者を困惑させる行為(法施行規則第16条の12第1号のヘ)

(4)勧誘に先立って宅地建物取引業者の商号又は名称、勧誘を行う者の氏名、勧誘をする目的である旨を告げずに、勧誘を行う行為(法施行規則第16条の12第1号のハ)

〔5〕相手方が契約を締結しない旨の意思(勧誘を引き続き受けることを希望しない旨の意思を含む。)を表示したにもかかわらず、勧誘を継続する行為(法施行規則第16条の12第1号の二)

〔6〕迷惑を覚えさせるような時間の電話又は訪問する行為(法施行規則第16条の12第1号のホ) などを禁止しています。(国土交通省)

 

宅地建物取引業者が上記の禁止に違反した場合,業務停止等の行政処分の対象になります。 宅地建物取引業法に違反したことが,直接,私法上の効果を生じるわけではありません。しかし,消費者契約法の困惑取消の参考となることもありえますので,宅地建物取引業法の処分を求めることも検討する必要があります。

 

なお,立証に際しては,当該マンションの価格や収益性について,不動産鑑定士による鑑定を検討する必要があります。

 

相談例

家賃保証があると勧誘され投資用マンションを購入したが、赤字になっている

数年前、不動産事業者から「投資用マンションを買わないか」と電話があり、会って話を聞いた。「空室になっても家賃保証される。老後の年金が少なくても家賃収入があれば大丈夫。築 10年のファミリー向けマンションなので、将来家族ができた時に自分が住むことも可能」「ローンは家賃収入で払える」と勧誘され、約 3,500 万円のマンションを契約し、銀行2社で 35 年のローンを組んだ。

その後、マンションに固定資産税が発生し、ローンの支払いは家賃収入だけで賄えず毎月約2万円の赤字になっている。また、中古物件の為、近い将来、マンションのリフォームや共有部分の修繕費が発生することや、家賃保証は5年間しかないことが分かった。マンションを売却してもローンが残る。事業者の説明に虚偽があったので補償等を求めたい。

(2018 年9月受付、20 歳代、女性)

 

<資料>

国土交通省

「投資用マンションについての悪質な勧誘電話等にご注意ください」

http://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_tk3_000028.html